インタビュー&ニュース

「(株)LIXILグループ」は2001年に(株)INAXと、トステム(株)が経営統合した(株)INAXトステム・ホールディングスが前身で、住まいにかかわる製品やサービスを提供する子会社、関連会社を束ね、約150の国と地域で商品を展開している。
 同社は2012年より、世界規模のビジネスで競争に“勝てる”経営者を育てる研修制度を取り入れた。決断の拠りどころとなる「軸」(価値観)と「知恵」(インテリジェンス)を持つために、自ら学ぼうとする人になるための意識改革を促している。
 2000年代に入ると国内需要が伸び悩み、多くの企業が海外市場の開拓に力を注いだ。しかしその結果、現地の政治や経済といった複雑な要因が増えて、経営者は数年先の見通しも立たない状況のなかで、さまざまな決断を迫られることになった。
 このような環境の下では、変わりつづける経営環境と向かい合い、自ら考え、組織を変えていけるリーダーを育てなければならない。同社が進める人材育成は、格好のモデルケースとなるだろう。
 KAIKAプロジェクトでは個人の成長を「自分なりの目標感を持つ」「自律的に考え、行動する」「成長と貢献が実感されている」「自律的な個の連携」の4段階に分け、それぞれのプロセスを検討している。GEの日本法人で人事部門のリーダーを務めた八木副社長に、変化に挑む組織のあり方についてうかがう。
Q:多くのメーカーが海外に販路を広げ、生産拠点の移転も進んでいます。その一方で、「チャイナリスク」という言葉が示すように、とくに新興国の社会情勢や経済状況は予測が難しく、経営者は経験則に頼らずに判断を下さなければなりません。八木さんは講演やインタビューのなかで「日本の企業はよい会社であるだけではなく、強くなければならない」と訴えています。

八木 私は1999年に、グローバルな規模でものづくりに貢献したいという思いが強くなり、GEの日本法人に転職しました。このとき、外から日本の会社を見ると、日本にはよい会社がたくさんあることがわかりました。
 しかしその一方で、社員を大切にするとか、高い技術力を持つというだけでは、海外の企業と戦うための“強さ”が足りないことにも気づいたのです。そこで私は、GEで学んだ、企業の競争力を高める経営を伝えることで、日本の企業がグローバルな市場で勝ち残るために役立ちたいと考えました。
 私はリーダーの候補生たちに、軸と知恵という2つのコンピテンシーを持ってほしいと言っています。日本人は欧米人に比べて周りの人の気持ちを汲み取る力が高いといわれます。しかし、ビジネスの世界では、相手の意見に流されることなく、自分の意見を主張する強さも必要です。そのときに経営者に求められるものが、自分なりの判断基準とインテリジェンスなのです。
 軸とは、人がそれぞれ持っている価値観です。海外にビジネスを広げれば広げるほど、背景にある経済要因は、国内とは比較にならないスピードで変わっていきます。過去の成功体験は役に立たないので、自分のなかにブレない価値観を持っていなければ、サイコロを振るように、運任せで決断を下すことになります。
 その一方で、決断の選択肢を絞り込む段階では、常に最新の情報を取り入れ、経験から学んだ知恵を駆使して論理的に考えなければなりません。軸と知恵の両方を鍛えなければ、強い経営者にはなれません。

Q:1960年代から70年代にかけての日本は、経済も人口も右肩上がりで、モノをつくれば売れるという時代が続きました。当時は競争力や体力のない企業は、新しい製品の開発を進めることが難しく、他社の後追いに走るというケースが多く見られました。また機能や品質が横並びになるコモディティ化は、むしろ現在のほうが深刻で、守りに入る企業は少なくありません。

八木 先が見通せないということは、同時にチャンスがどこにでも隠れているということでもあるので、リスクを恐れずに変化を先取りしていかなくてはいけません。そのためには、規則や慣例に縛られない組織づくりが必要です。
 技術革新のスピードが緩やかだった時代には、企業は必ずしもトップランナーである必要はありませんでした。例えばあるメーカーが画期的な製品を売り出して1人勝ちの状態になったとしても、後追いで似たような製品を発売すれば、経営が成り立つくらいには儲けることができたのです。
 しかし、いまは技術革新のペースが早くなっていて、1年先に何が売れているかなんて、想像もできません。そのため、同業他社に先駆けて画期的な製品を生み出すか、あるいは他社の動きに素早く対応し、少なくとも2番手でついていくくらいでなければ、勝ち残ることはできないのです。
 そして、マニュアルや規則に縛られ、がんじがらめになった組織では、素早い対応はできません。だから、社員1人ひとりが自律的に考えて意見を発信し、フレキシブルに動ける組織をつくります。とはいえ、ただ自由を与えるだけでは、組織はバラバラになります。そこで経営者は自分が信じている価値観を、経営ビジョンという形で社員に伝えます。会社が進もうとしている方向を共有できれば、細かい指示は現場のマネジャーに任せても、課題や目標が決まれば、同じ方向に皆が一斉に走り出すことができます。

Q:2012年より、「世界のどこでも力を発揮できる人材の育成」を掲げた研修制度を始めています。

八木 ある業界のなかで三番手や四番手でも生き残れるという、幸せな時代は終わりました。これからは、何が起こるかわからないから準備はできないと考えるのではなく、攻めの姿勢が必要です。例えばいま、クラウド系のテクノロジーや人工知能の技術が進歩して、私たちの仕事や暮らしを大きく変えようとしています。このように、間違いなく世の中を変えるであろう新しい技術について常に情報をとり、それを活かしていく会社だけが生き残るのです。
 私たちは、攻めの態勢をつくるために社内研修を変えました。「学習する組織」という言葉がありますが、私たちは「学習する“個人”」を目指しています。
 リーダー育成を目的とした研修では、知識や情報を教えるのではなく、「自分は何も知らないんだ」という気づきを促して、学ぶことへの意欲を引き出しています。これがうまくいけば、「LIXILという会社は、日本や世界をリードするようなものの考え方ができる人、経営者になれるような人を、たくさん育てているぞ」といわれるようになるでしょう。
 会社としては、優秀な人たちがつぎつぎと引き抜かれるということになると困るのですが、LIXILがグローバルで活躍できる人材を送り出すことで、日本の国際競争力が上がれば、それは経済全体の底上げにつながります。あとは社員の成長が私の期待を遥かに超えてくれることを願っています。

Q:入社後の教育だけでなく、採用も重要です。人間性や仕事のスキルなどはペーパーテストや面接だけで判断するのは難しく、解決されない経営課題の1つです。

八木 採用も経営と同じように、正解や方程式がありません。しかし私は、スキルのようなものはあまり見ていません。むしろ、学ぶという習慣を学生時代に身につけているかどうかを採用の「軸」にしています。
 例えば経営学や経済学をはじめ、技術史や文学などの古典を読んでもいいですし、逆に最先端の情報に目を配るのでもかまいませんが、何かを学び続けることのすばらしさを知っていて、それが無意識というか、“くせ”と呼べるようなレベルで身についているか、という点を見ています。
 人物像でいえば「大学に入るのが目標だったので、学生時代は遊んでいました」というタイプは、私の軸からは外れます。社会や人生について問題意識をもって向き合っている、そんな人材が欲しいですね。
 そこで、今年からは国内だけでなく、アメリカに留学している日本人の採用に取り組んでいます。
 言葉も習慣も違う環境に飛び込んで大学を卒業するということは大きなチャレンジなので、学ぶことへの意欲や習慣を、高いレベルで持っているはずです。それは採用する側にとって、大きな魅力ですね。

Q:少子高齢化によって労働人口が減ることが予想されます。優秀な人材の確保は、世界規模で事業を広げるためには、乗り越えなければならない問題です。多様性の観点からも、採用についての考え方もグローバルで考える時代を迎えています。

八木 少子高齢化が進む時代には、性別や年齢に関係なく、優秀な人材を育てて引き上げる仕組みを会社がつくらなければなりません。そうでなければ、世界の企業を相手に勝ち残ることはできないでしょう。そのためには、海外から人材を採用するということも増えていくはずで、日本とは違う文化や価値観を持つ人びとを職場に受け入れるための準備が必要です。
 説明すると、100人中100人が納得してくれます。とはいえ、その100人全員が組織を変えるために行動を起こすかといえば、そこが難しいところです。しかし、全員が変わらなくても、1割の10人が変われば、一気に全体が変わるということを、私は身をもって体験しています。