インタビュー&ニュース

アイエスエフネットグループは2000年の設立時から、システムエンジニアの派遣を中心に事業を展開してきた。現在は障がい者就労支援、事業所内保育施設(社外者の利用可能)、グループホーム、飲食店などにも事業を拡大し、グループ全体で従業員は3,000人を超えている。
 大きく成長したなかで、同社は“人財育成企業”として「雇用の創造」にも取り組んできた。2016年1月からは新たに「30大雇用」をスローガンに掲げ、障がいのある方をはじめとした一般的に就労が困難とされる方々が安心して働ける環境を整備してきた。1人でも多くの人に「働くよろこび」や「生きがい」を感じてもらいたいという願いが込められている。
 「個人の成長・組織の活性化・社会との関係の同時実現」を提唱するKAIKAプロジェクトと、アイエスエフネットグループの企業活動は重なる部分が多い。同グループの渡邉幸義代表に、個人と組織の関わり方、企業と社会貢献などについてお話をうかがった。
Q:アイエスエフネットグループでは、「30大雇用」を掲げて一般的に就労が困難とされる方々の雇用の創造に取り組んでおられます。日本の社会的な問題を解決すると同時に、個人が活き活きと働いて組織が躍進できる理想的な指針だと思います。まずは「30大雇用」の発想に至った背景をお聞かせください。

渡邉 私たちが創業した2000年頃は、ネットワークがアナログからデジタルに移行して、IT業界で必要とされる技術が大きく変わりはじめていた時期です。今後はネットワーク技術を支えるエンジニアが大量に求められると予測できましたから、技術者を派遣する会社をつくりました。当時の日本には、デジタル・ネットワークに強いエンジニアがあまりいませんでした。ですから、やる気さえあれば誰でもエンジニアになれるような、新しいビジネスモデルを一から自分たちで考えました。ネットワーク・エンジニア市場の需供バランスがうまく取れる仕組みをめざしたのです。
 これが市場にフィットし、2005年には従業員が1,000人規模まで成長しました。しかしそれ以上に需要は多く、人手不足の状況が長い間つづきました。創業したばかりの頃は出来て間もない小さな会社に来てくれるような高いスキルを持ったエンジニアなどはほとんどいませんでしたから、無知識未経験のITエンジニア志望者を募り、採用していましたので、履歴書の中身など検討する必要はありませんでしたが、その状況に更に拍車がかかり、とにかく人間性の高い、やる気のある人財をどんどん採用していきました。技術進歩に伴って必要なスキルもどんどん変化していましたから、過去の経歴などはほとんど無意味でした。
 その結果、採用した人の大半は未経験者で、しかもそのうち約30%が就労困難者といわれる人たちでした。働きたくても何らかの理由で働けないニートやフリーター、障がいのある方やワーキングプアと呼ばれる方たちです。この採用により、働く環境や時間、業務の中身について個別に配慮すれば、ほとんどの人が働けるのだとわかってきたのです。それが「30大雇用」の基礎となった「5大採用」です。

Q:「5大採用」からスタートして、「30大雇用」までカテゴリーが増えていったわけですね。

渡邉 2006年当時は、ニート・フリーター、FDメンバー(Future Dream Member※)、ワーキングプア、引きこもり、シニアの5項目を設定していました。そこから「10大雇用」「20大雇用」「25大雇用」と段階的に項目数が増えていき、2016年から「30大雇用」まで拡大させたわけです。(※一覧別掲
 当グループは、この30項目に該当される方に対して、これらの条件を理由に採用の合否を決めることはありません。いまでも履歴書や過去の職歴にこだわることなく、仕事に前向きで意欲的な人を中心に採用しています。
 「30大雇用」に該当する人たちは、現在の日本に1,300万人ほどいると考えられます。これまで働きたくても仕事がなかった人にとっては、この雇用モデルは大きなチャンスになるのです。また少子化の影響で減りはじめた労働人口が、これによって変化するかもしれません。当グループが「雇用の創造」を大義に掲げる理由はそこにあります。

【「30大雇用」一覧】
ニート・フリーター、FDメンバー(Future Dream Member※)、ワーキングプア、引きこもり、シニア、ボーダーライン(軽度な障がいで障がい者手帳を不所持の方)、DV被害者、難民、ホームレス、小児がん、ユニークフェイス(見た目がユニークな方)、感染症の方、麻薬・アルコール等中毒経験者の方、LGBT(性的少数者)、養護施設等出身の方、犯罪歴のある方、三大疾病、若年性認知症、内臓疾患、難病、失語症、生活保護、無戸籍、児童虐待の被害者、破産者、父子家庭・母子家庭、記憶障がい、就労国の言語が出来ない 且つ 専門スキルがない外国人、不妊治療中の方、その他就労困難な方(介護中の方)※アイエスエフネットグループでは障がいのある方を「未来の夢を実現するメンバー」として、FDメンバー(Future Dream Member)と呼称。
※図表の参考URL
http://www.isfnet.co.jp/csr/society/

Q:お話をうかがっていると、自社のことだけ考えるのでなく、日本の社会や将来の企業像まで視野に入れて企業活動を進めているようにも感じられます。ただ、「30大雇用」に該当する人たちが社会で十分に活躍してもらうために、どのような働きかけをされているのでしょうか。

渡邉 これまで一般企業が採用してきたのは、オールマイティーな能力がある人たちだといえ、決まった時間に勤務することができ、コミュニケーション能力に長け、広範囲の知識があり、いくつものスキルが身についています。「30大雇用」に該当する人たちと比べたら、「手間のかからない人財」ということです。
 しかし「30大雇用」に限らず、人間というのは誰でも何かしら欠落した部分があるもので、完璧な人財などいないと思います。そもそも欠落した部分は無視してかまわないと考えています。長所や優れた点だけに目を向ける。そうやって見方を変えれば、多くの人が働けることに気づきます。
 例えばワーキングプアの方と話してみると、なかには育児に時間をとられて十分に働けない、という人がいます。それなら、保育園さえあれば就労できます。社内に保育施設をつくったら、あっさり問題は解決しました。
 また、私たちのグループではLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)の人たちを以前から採用しています。戸籍上の性別は男性でも女性の心をもっているから女性の服を着て出社してくる人もいます。どんなに優秀で仕事ができても、こうした人を受け入れる企業はまだまだ少ないと思います。当グループは性的少数者を差別しませんし、偏見をもつ人もいませんから、どんなセクシュアリティーでも周囲に気兼ねすることなく働けます。
 大多数の企業は、そういう欠けている部分を補う努力を惜しんでいるだけなのではないでしょうか。多様性を受け入れ、それぞれに合った環境でそれぞれができる業務を切りわけて分担すればいいだけのことなのです。そういう労働環境をめざせば、働いてくれる人たちはたくさんいます。いたずらに可能性の芽を摘むようなカルチャーではよくないのです。

Q:多くの企業がその雇用システムに学べば、就労困難者の雇用はどんどん増えていくように思えます。そのためには、経営者や働く人たちはどんな点を意識していく必要があるのでしょうか。

渡邉 これからは、個人と社会との接点が切れないということが重要で、「切れない社会」がキーワードになると思います。
 これまで、会社側が求める働き方ができない人たちは継続して雇用されませんでした。これは非常に大きな問題です。障がいのある方のなかには、過去に就労経験はあっても、差別や偏見が原因で会社に居づらくなり、結局は辞めてしまったという人がたくさんいます。そうやって一度離職すると、社会との関わりが切れて復帰が難しくなります。特に、若いうちから社会復帰が困難になると、国が税金で面倒をみる年数が長くなり、労働人口が減ってきている中で大きな痛手となってしまいます。だから、「切れない社会」をつくる必要があるのです。
 私たちのグループでは、精神疾患や発達障がいの方も働いています。他人とのコミュニケーションが苦手な人もいれば、出社すること自体が困難な人もいます。しかし、だからといって、簡単に雇用関係を切ることはありません。「出社が大変な時は休職してもいいのですよ。会社に籍は置いて、また来られるようになったらいつでも復帰してください」というスタンスで接しています。
 犯罪歴がある人もいますが、過去のことには一切触れません。刑務所のなかで罪は償ったのですから、会社側が再び過去の話をもちだしたら、その人は未来への希望がなくなってしまうでしょう。幸い、社内にはどんな境遇の方がいても不満をいう人はなく、実にさまざまな人たちが在籍し、多様性に富んでいます。そういう会社が好きだという人だけ残っていますから、不平不満は出ないのです。
 前科があっても社会復帰が容易にできる土壌をつくるべきでしょう。これまでのように競争にあくせくし、効率を追求するだけでは、そういう良い心が育たないのではないでしょうか。

Q:「切れない社会」の実現はたいへん意義深いと思いますが、一人ひとりの働き方を考慮することは多大な労力が必要でしょう。「雇用の創出」が大義だとはいえ、そこまで手間ひまかける理由は何なのでしょうか。また、信頼関係を継続させる秘訣などありましたらお聞かせください。

渡邉 社員のために手間ひまをかけるのは特別なことではないと考えています。雇用主と雇用者は親子のような関係だと思っており、親が子のために手をかけるのは当然のことです。格別の理由があって行動しているわけではありません。
 わが子のために一生懸命に働く親の姿勢は信頼関係に結びつき、最終的には「切れない社会」につながっていくものです。
 大量の仕事を理想的にこなすためには、「残業しないで成果をあげてください、その代わり人員は増やします」と、雇用主が一番汗をかき、雇用者のことを思いやった行動に徹することです。そうすれば「この人のために頑張ろう」と、働きで応えてくれます。当グループには元フリーターや障がいのある方などが多く、苦労した共通体験がありますから、他人の痛みがわかる人がたくさんいます。
 隣の人が少し協力すれば成果が出せるような「お互いに関わりを増やして汗をかく」仕組みをつくらなければ、個人と社会の接点はあっという間に切れてしまいます。競争と効率化の次は「人に優しくなる時代」へ移るのだと思っています。

Q:グループ内に元就労困難者が約1,300人いらっしゃるそうですね。そのような他の企業にはない多様な人財を抱えることで、新たに生まれた強みはあるでしょうか。

渡邉 例えば、当グループには統合失調症の社員も数多く在籍しています。時には幻聴が聞こえ、妄想が激しくなることもありますし、突然何の脈絡もない話をはじめることもあります。しかし、他の社員はそういうものだと受け入れて接しています。症状が現れても誰も過剰な反応はしません。そういう周囲から受けるストレスが少ないため、病気がそれまで以上に進行しないのです。それで組織的にもまったく大きな問題は起こりません。
 そもそも多様な人財を受け入れていると、「自分と他人は違う」という意識が社員たちに浸透してきます。自分と異なる状況の人と接するためには、常に相手への細かい配慮が必要です。そうすれば自然に「利他目線」が養われるのです。
 人間は基本的には利己的です。しかし、生まれてから死ぬまで必ず誰かの世話になって生きています。他人に援助してもらった分、他人にも目を向ける必要があるのです。ある行動の目的が自分以外の誰かにあるとき、人間は大きな力を発揮するものです。利己目線よりも、利他目線のほうが成果は高くなるのです。当グループにとって、それが強みになっています。