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 クラウドワークスは2011年11月の設立以来、仕事を求める個人と仕事を発注したい企業が同社のサイトに登録し、仕事のマッチングを行う「クラウドソーシング」の事業を進めてきた。登録者は2016年3月現在で84万人を超えている。
日本の生産年齢人口(15~65歳)は1995年の8726万人をピークに減り続け、2051年には5000万人を下回るといわれる。働き手が減っていく時代には、子育てや介護のためにやむを得ず仕事から離れた人びとにも、労働力となってもらう必要がある。そのためには、多様な働き方とともに、生活の安定も提供しなければならないが、この点で同社の事業は、まさに社会全体が目指すべき、働き方の“革命”と言える。
 KAIKAプロジェクトでは、「個の成長、組織の活性化、組織の社会性」を同時に実現するプロセスを追求しているが、同社の事業は働き手の生活を守るための社会インフラの役割を担うという社会貢献を実現している。社長兼CEOの吉田浩一郎氏に、同社が変えようとしている働き方の将来像についてうかがう。
Q:2010年に、オバマ大統領が政府機関にクラウドソーシングの利用を勧める通達を出しました。その後、クラウドソーシングはNASAの宇宙開発事業など高度な分野で高い成果をあげ、アメリカでの市場規模は年間70%のペースで拡大しているといいます。働く人と企業のかかわり方は、クラウドソーシングによってどのように変わるのでしょうか。

吉田 日本では、働く人の8割が企業の社員です。そのような社会では、いったん組織を離れた人がフリーランスとして生計を立てることは、簡単なことではありません。
 その背景には、「企業の後ろ盾がない個人には、安心して仕事を任せられない」という偏があります。
 2060年には国民の2.5人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上になるといわれ、将来的に働き手が足りなくなることは間違いありません。産休や育休など女性が職場に残りやすくなる制度は整備されてきたものの、男性のほうは育休の取得率が2.3%(2014年度)とまだまだ低い。これでは女性が仕事を辞めて家庭に入ってしまうのも当然です。もし彼女たちが、クラウドワーカーとして働きつづけることができれば、企業にとっても、社会にとっても大きな力となるでしょう。
 しかし、ここで邪魔をするのが、「信用」という名の偏見です。多くの場合、外注先に法人が選ばれるのは、業務がオーダー通りに遂行されることを受注した企業が保障してくれるからです。その一方で、企業に属さない個人には、その保障がない。どれだけ能力が高くても、それを保障する「信用」のしくみがないからです。
 私たちはこの偏見をなくすために、個人が信用を今後得ていくためのしくみをつくりました。クラウドワークスのホームページには、クラウドワーカーがこれまで受注した仕事の数と紹介先の企業が5段階で採点した評価の合計を公開しています。仕事を頼みたい人は、グルメサイトでお店を探すように、スキルと過去の評価を見ながらクラウドワーカーを探すことができます。スキルの“質”が数字で見える化されていれば、安心して仕事を頼めますし、登録者にとっては実績をアピールする材料になります。

Q:御社はパナソニックやソニー、トヨタ自動車などの大企業をはじめとして7万5000社から仕事の発注者を請けておられます。また、2014年には東証マザーズ市場に上場し、2015年には、経済産業省「第1回 日本ベンチャー大賞 ワークスタイル革新賞」も受賞しました。“働き方革命”が進めば組織と個人の関係は大きく変わりそうですが、クラウドワークスの社内でも、“革命”は進んでいるのでしょうか。

吉田 日本の社会では、個人は企業よりも立場が低いと思われてきました。それは企業のほうが、個人に比べてはるかに多くの情報を集められたからです。
 何かを決めるときは、情報が多いほど、よりよい答えが出せます。そのため、情報を集める力の差が、企業と個人の上下関係を決めていたのです。ところが1990年代の後半にインターネットが普及すると、個人は企業と同じか、それ以上にたくさんの情報を集められるようになりました。その結果、個人の価値が高まった。会社内でも、かつて上司は部下よりも人脈が広く、そこから集めた情報を部下に伝えるのが上司の大切な役割でした。しかしいまは、インターネットをうまく活用できれば若手社員であっても、たくさんの情報を得ることができます。
 こうした時代の変化を受けて、私たちは、個の力を最大限に活性化し、社会の発展と個人の幸せに貢献する組織づくりを目指しています。これからの企業では、一人ひとりの社員が情報をもとに自分で考えて動き、会社がそれを支えていく「フォロワーシップ型」のマネジメントが主流になります。私たちの会社も、フォロワーシップで動いています。
 とはいえ、人間は高い目標を掲げて自分を鍛えようとしたり、中長期的に努力したりするのが苦手な生き物ですから、社員が皆、自分で考えて動くことができるわけではなく、難度の高い挑戦だと思います。しかし、私たちはフォロワーシップ型の経営によって、2035年までに営業利益を1兆円に伸ばすという目標を掲げました。これが成功すれば、新しい組織の在り方を、皆さんにお見せできるでしょう。

Q:IT革命は個人の価値を高めてくれました。その一方で、多くのビジネス雑誌が「10年後に残る仕事、消える仕事」という特集を組むように、ロボット工学や人工知能(AI)の発達は、多くの職場で無人化を進めています。

吉田 職場の無人化は、避けることができない大きな流れです。では、人間にしかできないことって何だろうと考えたときに、最後に残ったのは“発想力”、つまり、ゼロから何かを生み出すことでした。
 チューリッヒ工科大学の飯田史也氏が研究する「ロボットを作るロボット」のように、ムダをはぶいて効率を上げるという作業であれば、AIは人間よりも優秀かもしれません。
 しかし、価格や機能が同じような商品ばかりが店頭に並ぶコモディティ化の時代には、
人間の心を動かし、ワクワクさせるような価値を持たせなければ、売れる商品やサービスを生み出すことはできません。それは言い換えれば、商品に効率を無視した“ムダ”を持たせるということになるのですが、ムダという数値化できない価値を生み出すことはAIにはできません。
 一方の人間は、誰かをワクワクさせるためには「あなた自身は何を求めているのですか?」という問いと、しっかりと向き合わなければなりません。そのためには、社員の一人ひとりが人らしくあり、笑顔で働けるようなしくみを企業が示さなければいけないのです。私たちはこの“想い”を〈“働く”を通して人々に笑顔を〉という理念に託していますが、その方法が、クラウドソーシングを中心とした働き方革命なのです。

Q:例えば怪我で入院した場合、サラリーマンは有給休暇が残っていれば、その分だけ給料は保障されます。その一方で、フリーランスは働くことができなければその分だけ確実に収入が減ってしまうため、生活の基盤が安定しているとは言えません。このような違いが、クラウドソーシングの普及を妨げるように思われます。

吉田 フリーランスという働き方に魅力を感じながらも、仕事ができなくなったときに収入が途絶えてしまうことに不安を抱える人は少なくありません。
 私は働き方の革命を3段階に分けて進めています。第1段階では、クラウドソーシングという働き方そのものを社会に広めます。第2段階では、正社員だけでなく、派遣社員や契約社員も含めた多様な働き方を提案します。
 そして第3段階では、個人で働く人たちのための社会保障制度をつくります。2014年には、保険会社と組んで、クラウドワーカー向けに保険加入の機会をつくりました。このなかには、怪我や病気などを理由に仕事を受けられなくなったときに保険金が支払われる就業不能保険があります。そのほかにも、一般の企業と同じレベルの施設優待などが受けられる福利厚生サービスを無料で利用できる制度を立ち上げました。
 将来的には、私たちがまとめ役になって、フリーランスで働く人びとが助け合うという、互助会のようなシステムをつくりたいですね。現在、私たちには84万人の登録者がいるので、1人が1万円を積み立ててもらえれば、84億円の基金ができます。クラウドソーシングという働き方を選んでいただくためには、私たちが“安心”を提供しなければならないのです。

Q:2011年に発生した東日本大震災は、働き方や社会貢献に対する日本人の考え方を変えました。ふるさとの被災地に帰って事業を起こす人や、札幌から派遣されたまま福島県警に転職した警察官のように、Iターンで被災地で働く人は少なくありません。多くの人びとが、昇給や昇進といった、従来型のインセンティブではないものに、働きがいを見出したように思われます。

吉田 東日本大震災では、東京で10万を超える人びとが、家族の待つ家に帰ることができないという「帰宅難民」を経験しました。被災地に住む家族と連絡がつかず、不安な夜を過ごした人も多かったでしょう。このときから日本人の心のなかで、「いざというときに家族のそばにいられなければ、どんなにお金を稼いでも意味がない」「自分を育ててくれた町に戻って恩返しをしたい」という価値観の変化が起こったのだと思います。
 1960年代の高度経済成長期には、日本人は、豊かな暮らしを手に入れるために働いていました。その象徴がカラーテレビ、クーラー、自動車で、当時は「新・三種の神器」と呼ばれたそうです。しかし、東日本大震災をきっかけに「納得できるかたちで仕事ができなければ、どんなに収入が高くても満足できない」と考える人が増えています。
これからの経営者は、人びとが納得して働ける職場環境をつくるのが使命だと思っています。経営者のなかには、社員を型枠にはめるように、細かいことにまで指示を与える人もいます。しかし、命令通りに動いているだけでは、やらされ感がたまるだけですし、なにより、私自身が社員のやる気を奪ってまで儲けたいとは思いません。
社員に任せる経営は、自分が指示を出すより時間もコストも掛かります。それでも私は社員のやる気と能力を伸ばす方法で事業を大きくしたい。そしてその先に、クラウドソーシングが社会になくてはならないインフラになってほしいと考えています。