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2009年1月、コモンズ投資は月3000円から株式投資ができる長期保有型の個人向けファンド「コモンズ30ファンド」を立ち上げた。社員9人、顧客数153人からのスタートだったが、現在は社員数は20人を超え、顧客数も6000人以上まで成長した。会長の渋澤健氏は、明治時代に東京株式取引所(現・東京証券取引所)の設立にかかわった渋沢栄一氏の孫の孫に当たる。
 多くの投資ファンドは売却益を求めて株の売り買いを繰り返すが、コモンズ投資の場合は、企業の株価を追うことではなく、企業の持続的な価値に投資する。長期的に見れば、価格は価値についてくるので、結果的には投資家の利益を増やすことになるという発想が根底にある。また、コモンズ投信は売上げのおよそ1%を原資に、社会的課題の解決に立ち上がる社会起業家の活動を応援している。次世代に「今日よりも、よい明日」社会を残す「投資」であると捉えている“想い”は、「ソーシャル・インパクト投資」へにもつながる。
 KAIKAプロジェクトでは「個の成長、組織の活性化、組織の社会性」を同時実現するプロセスを追究しているが、同社の方針は「組織の社会性」の実現という点において、多くの示唆を含んでいる。渋澤会長に、企業と投資ファンドが社会貢献に果たす役割についてうかがった。
Q:渋澤さんは2000年に息子さんが誕生したとき、個人が子どもの教育費や老後の生活に備えて少額から始められる長期投資のメリットに気づいたそうですね。そして実際に投資信託会社を設立されファンドの運用を始めたのはリーマン・ショックの翌年。国際投資信託協会が発表する投資信託の残高が2003年以来5年振りの減少に転じ、逆風が吹くなかでのスタートとなりました。

渋澤 現在の株式投資は短期間に売り買いを繰り返して大きな利益を得るという、投機的な動きが中心となっています。しかし一方では、じっくりと長期的にお付き合いする株主として、企業の持続的成長の恩恵に期待する人たちもいます。また、「今日よりも、よい明日」という明るい未来を自分と家族たちに望んでいる方々は全国にいらっしゃる。そのような一人ひとりの小さな、けれども大事な“想い”をまとめて、大きな力に変える投資ファンドをつくりたいと思ったのです。
 企業は持続性の高い経営を進めるために、その事業が利益を生むまでに長い年月がかかる施策を打つこともあります。例えば製薬会社の研究開発などです。その一方で、子どもの教育費や退職後の生活資金を蓄える株式投資の時間軸は20~30年になります。株を急いで売り買いするものではなく、子供の成長のように、じっくりと企業の持続的成長に期待をする長期投資です。このような時間軸は、企業をゴーイング・コンサーンと考える経営者と同じ価値観を共有することができます。
 1人ひとりの投資額はけっして多くはありません。我々は月々の積み立て投資を3000円から受け入れています。しかし、投資信託とは、多くの人が集まって複数の企業に投資するという仕組みなので、出資者が集まれば集まるほど存在感が増し、企業と同じ時間軸を持つパートナーになれるのです。
 当時は、リーマン・ショックの影響で株式市場は氷河時代のようでした。そういうときこそ、将来を見据えた安定的な経営が重要であり、そのような経営を志向している企業を支えるコモンズ30ファンドを立ち上げました。

Q:株価が日々変動する背景には、短期の業績で評価を下すという要因があります。しかし、目の前の業績には表れない優れた経営資源を持つ企業もあります。とくに御社のファンドのように、「30年後の成長が見込まれる」という基準で企業を評価する場合には、数値化できない部分の評価が重要ですね。

 
渋澤 多くのファンドは投資先の企業を選ぶとき、直近の収支などの期待、あるいは失望で判断しがちです。しかし企業の業績は、原油価格や為替相場の変動など、企業努力ではコントロールできない条件に左右されます。しかし、持続的成長が可能な企業とは、特に逆境において事業再編やイノベーションを通じて「進化」できます。ただ、「進化」とは、短期的な株価の動きでは判断できません。
 例えば新しい素材や技術を開発するための研究投資、将来の経営を任せる人材を育てるための投資は、1年や2年で結果は出ません。これを短期的な視点で見ればコストですが、10年後にコストを上回る利益を生んでいれば、それは持続可能な経営に欠かせない投資なのです。
 とはいえ、いくら短期の利益を求めないといっても、企業の業績が下がり続けていけば、疑念が沸きます。その疑念を取り除くことができるのは、企業と投資家の“対話”です。対話力がある企業は、業績が低迷するなかでも将来へ向けての改善や投資を続ける理由を適切に説明できます。このような対話力がなければ、長期投資の対象としても難しいです。
企業と投資家への「対話」の意識は近年高まっていますが、企業はもっと長期投資の志向を持つ個人への意識を高めることに期待しています。個人とは、企業にとって、株主のみならず、自社や取引先の従業員、そして最終消費者です。企業の持続的成長には不可欠なステークホールダーです。

Q:2013年に開催された主要8カ国首脳会議(G8)で、イギリスのキャメロン首相が社会問題の解決に取り組む企業や団体への投資を募る「ソーシャル・インパクト投資」に関するタスクフォースの立ち上げを呼びかけました。これを受けて、社会課題の解決に向けた企業の取り組みに関心が集まっていますが、日本でも個人投資家が社会への貢献度を見て投資先を選ぶという動きは見られるのでしょうか。

渋澤 自分1人の力は小さくて微力でも、同じ“想い”を持った仲間が集まれば、足し算や掛け算を通じて大きな勢力になれまるという実感が必要です。微力な個人が、投資を通じて社会課題を解決することに気づき、そして、その可能性に共感すれば、大河のような勢力になれると思っています。
 東日本大震災の復興支援も、ある意味でソーシャル・インパクト投資です。社会課題へ出資することは、単にチャリティや慈善活動ではなく、持続的成長の土台づくりへの投資ですから。また、貧しい人びとを見捨てることなく経済を発展させる資本主義という意味の「インクルーシブ・キャピタリズム」が、2015年のダボス会議で議題に取り上げられたように、世界の時代潮流では政治や行政が取り組むものと見られていた社会問題について、経済界も積極的に関わるべきだという意見が聞かれるようになりました。
 私は社会を変えるようなイノベーションは、巨大な資本ではなく個人の微力な“想い”を共感を通じて足し算、掛け算して起こることが理想であると考えます。足し算、掛け算とは、つまり出会いです。人々の出会いがなければ、イノベーションはありえません。
一方、無力は「ゼロ」です。いくら足し算、掛け算してもゼロです。我々1人ひとりは微力であるかもしれないけれども、決して無力ではないのです。このような意識があれば、企業や社会を動かせるのではないでしょうか。

Q:ご先祖の渋沢栄一氏は、大正5年(1916)に出版された『論語と算盤』のなかで、「真性の利殖は仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものではない」*1と語っていますが、仁義道徳に基づく利殖という言葉は、社会問題の解決に取り組む企業への投資と置き換えることができると思われます。

渋澤 2011年に、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授がCSR(企業の社会的責任)に代わる概念として、利益の追求と社会への貢献を両立させる「CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造」を提唱しました。CSVが掲げる2つの目標は対立するように見えますが、問題が見過ごされている社会では経済が衰え、企業は収益の基盤を失います。言い換えれば、社会問題の解決は自分たちの利益につながるのです。
 私は、利己的な行為も長期的な視点を加えることで社会の利益を生むことができると考えます。例えば、自分の子どもにより良い教育を受けさせるためにお金を使うことは利己的な行為です。しかし、教育するということはその子どもが大人になって社会で自立して生活するためであり、そういう意味では社会に貢献しています。つまり、教育という投資は利他へつながるのです。企業への投資も短期的な利益をむさぼることは利己的です。ただ、長期的な時間軸を刺せば、その企業の持続的成長を支えることになります。企業が持続的成長できているということは、世の中で価値を創造し続けられていることになります。そういう意味では、企業として世の中の持続性は必須条件です。
 CSVの「V」のValueが、短期的であれば意味ありませんが、それが「SV」Sustainable Value、持続的価値であれば、渋沢栄一の思想とほぼ同じであるといえます。

Q:投資先の企業を選ぶ際に、ガバナンス(企業統治)についても検討を加えると思われますが、ガバナンスに関わる要素の1つに企業風土があります。企業によって異なる経営理念や文化を指しますが、数字で表すことができないため、比較のむずかしい指標です。

渋澤 経営改革を目指す企業は、その多くが風土の改革を目標に掲げます。具体的には経営理念であり、現場で受け継がれている仕事の進め方や課題を解決する力ですが、目に見えないものを客観的に捉えることはむずかしいです。社外取締役など外部からの意見も企業の経営に取り込むことは、特に著しく世の中が変化している現在では、企業の持続的価値の創造には不可欠だと思います。
 一方で、決算報告書などで見える化された数字だけでは企業の価値を正確に表せないと思います。もちろん数字は「共通言語」になるので、価値判断には欠かせません。ただ、数値化は情報の「デジタル化」であり、伝達の効率性は高まりますが、微妙な「アナログ的」な情報を削ぎ落としている可能性があります。情報がデジタル化しても、人間の思考、感情、行動はアナログ的ですから。
そのため、経営者は数字だけで経営の善し悪しを判断するのではなく、常に経営の現状が正しいかを自分に問い続けて、最終的には不確実な世の中で決断しなければなりません。数字はその手がかりでしかないのです。
 例えば健康診断で肝臓の数値が異常を示したときに、医者は「ああ、肝臓が悪くなっていますね」と言うだけでは終わらせず、食事や生活習慣を改善するために患者と話し合いますよね。「結果がすべて」ではなく、その過程や原因も大事です。
同じように、「ROE目標を達しているか」といった数字を提示するだけではなく、その背景を、企業と投資家が共有することが重要です。
正しい答えを出すことではなく、正しい問いかけが重要であり、対話は企業と投資家がウィン=ウィンの関係をつくるための、スターティングポイントなのです。
以上

*1 『創業者を読む①論語と算盤』(大和出版 1985年発行)より引用