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 VSNは2004年の設立以来、ICTやメカトロニクス・エレクトロニクス、バイオ・ケミストリー分野のエンジニアリング派遣を中心に事業を進めてきた。2011年からは、派遣先の職場で派遣エンジニアが自ら課題発見及び解決策の実行を行うサービス、「バリューチェーン・イノベーター(以下VI)」をスタート。エンジニアの枠を超えて組織に変化を起こすイノベーターを送り出すことで、派遣業の社会的地位の向上を目指している。
 同社が設立された2004年は、1960年代の「いざなぎ景気」を超える好景気が続き、派遣の契約数も順調に伸びていた。しかし、2008年にリーマンショックの影響で景気が冷え込むと、契約数が落ち込み、社員の約半数が待機を強いられた。また、「派遣切り」という言葉が象徴するように、失業者のすべてが派遣労働者であるかのような誤解が広まった。
 人材派遣業界が提供するサービスは均一化し、同社も同様に差別化・競合優位性を見いだせないでいた。この危機的状況を打破すべく、エース社員16名によるプロジェクトがスタート。そこで、顧客が求める人材をあらためて問い直したところ、リーマンショックの後にも契約を打ち切られなかったエンジニアは、技術力だけでなく、派遣先の職場で主体的に社員に声をかけ、部門を超えた改善活動が評価されていたことがわかった。そこで生まれたのが同社独自のサービスであるVIだ。顧客の事業課題に本質的解決策を以てアプローチするこの取り組みは顧客から高い評価を得ており、派遣エンジニアが産業界に新たな価値を創造できることを証明している。
 その一方で、VIは顧客の利益だけではなく、同社の人材育成にも成果を生んでいる。事業課題の解決に取り組む際のコンサルティング能力はもちろん、自律的に仕事を進めるという経験が派遣社員の価値はもちろん、自主性やモチベーションを高め、より大きな成果を顧客に提供するという好循環が生まれた。
 現在はアデコグループの一員である同社であるが、派遣業界の地位向上に向けても先鞭をきって活動をしている。
 アデコグループでは働く人々とお客様の“better work, better life”を掲げており、同グループのもとで各事業会社は人の強みを引き出しながら事業展開を進める。またVSNは「人財(ヒューマンキャピタル)の創造と輩出を通じて、人と社会の歓びと可能性の最大化を追求する」という理念を掲げている。
 KAIKAプロジェクトが目指す「個の成長」の視点から、新しい派遣業が持つ可能性を、2社の社長を兼務する川崎様にうかがう。
Q:VSNの「人財(ヒューマンキャピタル)の創造と輩出を通じて、人と社会の歓びと可能性の最大化を追求する」という経営理念は、1997年の創業時にはなく、川崎さんが事業部長に就いた2004年につくられました。

川崎 経営理念とは、会社が社会に対して何をしたいか、または何ができるかを言葉にしたものです。当社の理念を平たく言えば、「世の中に役立つ人を育てる」ということです。
 当社はエンジニアの派遣業なので、「役立つ人」とは、まずは高い技術力を身につけて、お客様の要望に応えることができる人です。さらに私たちは技術力だけでなく、リーダーシップ、フォロワーシップ、マネジメント能力、コミュニケーション能力という4つの能力が必要だと考えます。ひと言でいえば「人間力」。技術力と人間力の両方が高い人を、「人財(ヒューマンキャピタル)」と呼んでいます。
 「世の中に役立つ」という意味では、まずは派遣業界にできる貢献に取り組んできました。2011年に始めたVIでは、自ら業務や組織の問題点を掘り起こし、お客様とともに改善に取り組むことで、「派遣=指示されたことを行う」というイメージを大きく変えたいと考えています。
 リーマンショックの直後に、「派遣切り」という言葉がマスコミに取り上げられ、派遣という労働市場全体のわずか2%に過ぎない働き方が、失業問題のすべてを背負わされてしまいました。VIを通じて派遣先の事業に革新をもたらし、これまでにない価値を生み出すことで、この誤解が解け、派遣社員や業界の社会的な受け止め方を変えることができると強く信じています。
 また、VIはお客様から高い評価をいただいていますが、このコンセプトを考え出したのは、現場で改善に取り組んでいた派遣社員でした。まさに「人と社会の歓びと可能性の最大化を追求する」という理念通りの“人財”が育っています。

Q:2015年には政府が「一億総活躍社会」を掲げ、女性活躍推進法が施行されました。多様な働き方の1つとして、派遣業界への期待は高まっています。

川崎 当社にも若い世代が増えています。今後もこの流れを止めないように、若い人たちが安心して派遣という働き方を選べるようなビジネスモデルをつくりたいですね。
 キャリアの積み方が多様化して、終身雇用制度の下で1つの会社で働き続ける人もいれば、いろいろな職場で働くことで、技術力や人間性を成長させたいと考える人も増えています。派遣社員は雇用が不安定というイメージがありますが、VSNでは社員として雇い入れてから派遣するので、安心して働くことができます。安定を得たうえで、いろいろな環境に飛び込んでみたい、そのために派遣という働き方を選ぶ、ということができるのです。
 その一方で、お客様の見方も変わっています。お客様から、「皆さんがいないとビジネスが成り立たちません。引き続きともに事業を成長させていきましょう」と言われることが増えています。さらにVIによって提供できる価値も高まり、単なる外注先ではなく、互いが成長していく上でなくてはならないパートナーという地位を築きつつあります。派遣社員に対する負のイメージは、雇い入れる企業と働く人たちの両方から消えつつあります。

Q:VSNは2012年に、60を超える国に拠点を持つアデコグループに入りました。日本から新しい派遣業のモデルを示すことができれば、「人と社会の歓びと可能性の最大化」が、世界規模で実現されることになります。

川崎 2020年までの中期事業計画では、産業界の新たなエネルギーとなり、世界に通じるイノベーションモデルを生み出そうというビジョンを掲げています。VIはその候補として、とても革新的なモデルとして、国外グループ支社からも関心を集めています。
 VSNは2012年に、アデコという世界最大規模の人材サービス会社のグループに入りました。私は日本法人の取締役も兼ねていましたので、さまざまな機会を通じて国外グループ企業にもVIについてプレゼンし、海外市場でのVIの可能性についてヒアリングを重ねました。すると世界でも派遣業でこのようなサービスを行う企業はないということがわかり、彼らからも「おもしろい」「やってみたい」という声が上がったのです。会社の外から職場に入って実際に働いているという、社員でも第三者でもない、“第2.5者”ともいえる立場から改善を提案するというコンセプトは、世界的に見てもユニークだったんですね。

Q:派遣社員というのは独立した個人が派遣先の職場に入って働くというイメージがあります。その一方で、改善活動は職場や部門のメンバーがチームを組んで進めます。VSNが目指す組織のイメージをお聞かせください。

川崎 1人ひとりが自ら考え動く、この状態が、最強の組織だと思います。
 自律的に働く人は、いつも周りの人のモチベーションに火を点けるエネルギーを放っています。VSNの社長になってからの5年間で、お互いのやる気を高めあうことができる組織づくりを進めてきました。まだまだ伸びしろは大きいのですが、最強の組織に近づいているという手ごたえはあります。
 しかし、自ら動くといっても、好き勝手に動いてしまっては、やる気を高めあうことはできません。そこでマネジメント能力の高い社員がリーダーシップを発揮して、1人ひとりの役割と目標をハッキリと示します。その目標を達成するためには何をすればよいかを考え、共感し理解あえれば、チームは一体感を持って最良の結果を生み出すことができます。こうした個人の集まりが、最強の組織です。
 私たちがお客様に派遣するエンジニアたちも、3~5人くらいのチームを組んでいます。各チームのリーダーには部下の人事考課も任せています。20代でリーダーになる社員も多く、マネジメントにおける説明責任や人材育成という課題にぶつかり、みな、最初は悩みます。しかし、多くがリーダーとしての経験を通じて、大きく成長していることは事実です。
 お客様の職場で働きながらチームをまとめるのは、本人にとっては大きな負担です。しかし、「大変」という字は「大きく変わる」と書くように、困難が大きければ大きいほど、やり遂げたあとには大きな成長が待っています。いい意味での修羅場を経験することは本人にとって大きな財産となる。リーダーはみな、この困難を自信に変えています。

Q:派遣社員は外部の第三者と思われることが多く、内部で進める改善と比べて社員の抵抗は大きくなります。改善を進めるためには、提案の内容に説得力を持たせることが求められます。

川崎 本当に納得して取り組んでもらわなければ、改善はうまくいきません。VIでは改善が生み出す利益を数字でわかりやすく示し、進めることで自分たちの事業成長につながるということを理解いただきます。
 その問題があるためにどれだけの損が生じているか、改善のあとにどれだけの利益が生まれるかなどを、関係部署へのインタビューや工数管理の資料、一般的な統計資料などをもとに具体的な数字で示します。マネジャークラスの方であれば、数字を見ればすぐに提案の価値をわかっていただけます。これは日々ともに働きながらも、第三者としてその組織に縛られずに活動できる、“派遣”という働き方ならではの強みです。

Q:2011年にVIがスタートしてから、2016年で5年が過ぎました。顧客の信頼も高まり、改善の範囲や規模も変わっています。

川崎 今後はもっと多くのお客様にVIを知っていただき、経営にインパクトをもたらすくらいの成果とともに“驚き”をもたらしたいと考えています。驚きとは、「私たちの会社には、まだこんなにすばらしい可能性があったのか」という発見です。そのためには、経営者を巻き込んだ規模で改善を進めなければなりません。
 その一方で、派遣社員として現場に入ってまず取り組むのは身近な問題です。すぐに全社規模の改善に手をつける、というわけにはいきませんので、まずは会社ごとに違う仕事の進め方や職場の空気を知り、改善の流れを一通り経験したうえで、巻き込む相手を部門長から事業部長に広げていきます。そして最後に、経営者さえも驚かせるような成果を出す。そんなイノベーターになろうというのが2020年に向けた次のステップです。